わたしは気球に乗ると決めた。あの男にはあなた以外の人と気球に乗るからと告げた。浜風のまだ暖かい夕暮れだった。誰かのクルーザーが波に揺られて上に下の動いていた。 あの男は動揺していた。早口で少しだけ何か言ったはず。そして徒歩で立ち去った。一度…
山の中に汚く臭い泥沼がある。俺はその泥沼に首までつかる。何とか這い上がらなければ沈み、重い泥が肺に流入する。死ぬ。はあはあを息を切らして這い上がろうとする。木の根や枝にしがみつく。泥と汗で滑る。 彼方から、気球がこちらの方向に向かってくる。…
苦しみの中から立ち上がれ アントニオ猪木「闘魂」語録 (宝島SUGOI文庫)作者:アントニオ猪木宝島社Amazon 巻末の「完全年表 アントニオ猪木 過激なる77年の軌跡」が過激すぎる。1943年横浜で生まれ、13歳でブラジル移住。そのサンパウロで力道山にスカウトさ…
北極探検隊の謎を追って: 人類で初めて気球で北極点を目指した探検隊はなぜ生還できなかったのか作者:ベア・ウースマ青土社Amazon 探検家たちが人類初の北極点到達を競った19世紀末。気球で北極点を目指した3人の男たちがいた。彼らアンドレー北極探検隊は、…
今週のお題「お気に入りの靴下」 社会に出て、頻繁に靴下に穴が開いた時期があった。だいたいつま先部分からやられるのだが、気に入った靴下も、丈夫さを謳う商品も程なく破れた。あんまり次々に傷むもので、穴の開いた靴下を履くことが常態化した。居酒屋な…
インドネシア大虐殺-二つのクーデターと史上最大級の惨劇 (中公新書)作者:倉沢 愛子発売日: 2020/06/22メディア: 新書 物々しいタイトルだが,誇張ではない。1960年代半ばにインドネシアで発生した2度のクーデターの間,反共産主義者に虐殺された人は50万人…
今週のお題「激レア体験」 人事異動を期に、自分で買って職場に置いていた売れなさそうな書籍をまとめて処分したことがある。悲しいが、時にはやむを得ない。書き込みをしたりして価値がなさそうなものを紐で縛り、ビルの地下にあるひんやりした集積場に運ん…
実力発揮メソッド パフォーマンスの心理学 (講談社選書メチエ)作者:外山 美樹発売日: 2020/02/12メディア: 単行本(ソフトカバー) 本書のタイトルは『実力発揮メソッド』。「自分には実力といえるほど凄い力,ないしな…」という引け目を誘発しそうだが,大…
あなたのことはそれほど 1 (Feelコミックス)作者:いくえみ 綾発売日: 2012/11/08メディア: コミックヤング女性向けの漫画雑誌『FEEL YOUNG』に2010年から2017年まで不定期に連載された作品である。2017年にはドラマ化されている。一言でいえば,どろどろのW…
東西に並ぶ古い商業ビルが,2階部分の通路でつながる。通路の南面には屋根がなく,幅20メートル程度の小さな広場になっている。このスペースは喫煙場所として使われてきた。3月中旬,年季の入った3台の灰皿に張り紙を見つけた。3月末で喫煙場所としての利用…
奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業 ――この生きづらい世の中で「よく生きる」ために作者:荻野 弘之,かおり&ゆかり発売日: 2019/09/12メディア: 単行本(ソフトカバー) 生きているといろいろある。ローマ時代の哲学者エピクテトス(西暦50/60年頃~136年…
太陽にほえろ! 伝説 (ちくま文庫)作者:晋吉, 岡田発売日: 2020/02/11メディア: 文庫 『太陽にほえろ!』と聞くとあの乾いたテーマ曲が反射的に脳内再生されたあなた、同志と呼ばせていただこう。『太陽にほえろ!』は1972年7月から1986年11月までの14年5か月…
ワークブック インドネシア語 第(1)巻作者:森山 幹弘,柏村 彰夫,稲垣 和也出版社/メーカー: 三元社発売日: 2018/04/20メディア: 単行本(ソフトカバー) 人口は世界第4位,歴史上も経済上も日本と関係の深い国インドネシア。しかしインドネシア語の語学書は…
顔師(かおし)とは、芸者衆や踊り子に化粧をほどこす職業。本作は、顔師の男が日本舞踊の名手お糸さんの思い出を語る短編小説である。昭和32年初出、全集・選集によく収録された作品でもあり、初めて舟橋作品を読む方にお薦め。 私が好きな場面がある。顔師…
みんなの世界 (岩波の子どもの本)作者:マンロー・リーフ出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1982/01/01メディア: 単行本 児童書にしてはやや無機質なタイトルと、落書きスレスレの脱力系イラスト。本書は民主主義のルールを、小学生の日常生活を引き合いに易…
『薔薇(ばら)射(う)たれたり』は昭和21(1946)年、雑誌『女性』に連載された作品である。恋敵の女性同士が電車で向かい合わせになるというような不自然な偶然がいくつか見られたり、語り手の「私」が途中からいなくなったりと、完成度を問題にしようと…
オーロラの日本史: 古典籍・古文書にみる記録 (ブックレット“書物をひらく”)作者:岩橋 清美,片岡 龍峰出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2019/03/15メディア: 単行本 日本の古い史書や日記には、オーロラを目撃したものと思われる記録が多数残っているという。…
日本の食文化 6: 菓子と果物作者:出版社/メーカー: 吉川弘文館発売日: 2019/10/24メディア: 単行本 お菓子や果物は生存用の食糧というよりは、味覚を楽しむ嗜好品である。ではご先祖さまはいつから、どんな風に甘味を食するようになったのだろう。本書では、…
7(セブン) 1週間のうち何日を特別な日にできるだろう?作者:ダン・ゼドラ,Dan Zadra出版社/メーカー: 海と月社発売日: 2014/11/28メディア: 単行本 ポジティブな言葉を自力で生産できないとき、人は本にそれを求めるのだろう。2019年12月のある夜、東京駅前の…
1.地方公務員月報という月刊誌 『地方公務員月報』は、地方公務員制度の正しい理解と運用の指針を示す月刊誌である(総務省公務員課編)。想定読者は自治体の人事担当者だと思われる。自治体の取組みを応援しつつやんわり国の言うことを聞かせようとする姿…
【書評】若いセールスマンの戀 [著]舟橋聖一戦後間もない昭和29年頃、外車のセールスマンで23歳の雪雄は、同僚と共に赴いた得意先の資産家・滋本家の由香子夫人に一目ぼれする。主人が不在のため夫人を外車に乗せ、同僚の運転で試乗させる。屋敷に帰着後、…
どこでも刑法 #総論作者: 和田俊憲出版社/メーカー: 有斐閣発売日: 2019/10/09メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを見る 【書評】『どこでも刑法#総論』[著]和田俊憲刑法学は「ある人が誰かの利益を害したとして、そこに犯罪が成立する…
スナックの言語学: 距離感の調節作者: 中田梓音出版社/メーカー: 三元社発売日: 2019/10/11メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 研究者にしてスナック女子(スナ女)の著者が、スナックのママの「『痒いところに手が届く』接客の技術」を言語学の観…
南の島のよくカニ食う旧石器人 (岩波科学ライブラリー)作者: 藤田祐樹出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2019/08/24メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 11月も中盤。国内旅行のパンフレットがカニツアー色の赤に染まる。秋の風物詩である。しかし、…
永田鉄山と昭和陸軍 (祥伝社新書)作者: 岩井秀一郎出版社/メーカー: 祥伝社発売日: 2019/07/01メディア: 新書この商品を含むブログを見る 【書評】永田鉄山と昭和陸軍[著]岩井秀一郎(2019年7月、祥伝社)昭和10(1935)年8月12日午前9時45分、東京は陸軍…
夏みかん酢つぱしいまさら純潔など (河出文庫)作者: 鈴木しづ子,川村蘭太出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2019/06/05メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 失踪した伝説の女流俳人鈴木しづ子を追う2冊目の句集『指環』出版記念会から半年後の1952…
月刊住職 2019 9―寺院住職実務情報誌作者: 興山舎出版社/メーカー: 興山舎発売日: 2019/10/01メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 『月刊住職』は寺院住職のための情報誌である。仏教書に独特の難解さはなく、住職ではない私でも楽しめる。記事の本…
バビル2世 (2) (秋田文庫)作者: 横山光輝出版社/メーカー: 秋田書店発売日: 1994/10/01メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る 小学生の頃、将来の夢を答える場面で「世界征服」と回答する子がクラスに1人はいた。世界征服という言…
バビル2世 (1) (秋田文庫)作者: 横山光輝出版社/メーカー: 秋田書店発売日: 1994/10/01メディア: 文庫 クリック: 8回この商品を含むブログ (11件) を見る 人間が高い塔を作る不思議な夢を毎夜見るようになった少年、浩一。その夢は自分を長年待つ人物からの…
骨は語る 徳川将軍・大名家の人びと作者: 鈴木尚出版社/メーカー: 東京大学出版会発売日: 1985/12/01メディア: ハードカバー購入: 3人 クリック: 40回この商品を含むブログ (15件) を見る (鈴木尚著、1985年12月発行、東京大学出版会、221頁、5,000円+税)…