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今日か明日、書店に行きたくなる書評

【書評】海底に眠る蒙古襲来 水中考古学の挑戦 [著]池田榮史

カバー写真には、青い海の中でスケッチする潜水服姿の人物。彼が見つめる海底には何やら褐色の物体。これが有明の海に眠る蒙古の軍船なのか。襲来は740年近く前のことだ。何が出てきたのか?そもそもどうやって発見したのか?

 

本書は、九州は伊万里湾の海底に遺された蒙古襲来の姿に迫っていく考古学者たちのレポートである。考古学、中世史、海底の探索技術に関心のある方にはもちろん、歴史の解明にわくわくするすべての方にお薦めの一冊だ。

 

蒙古軍は日本に二度来襲したが、いずれも暴風雨に見舞われ元軍は敗走。弘安の役1281年)では4,400隻の元軍船が伊万里湾海域で沈没したといわれる。琉球大学で教鞭をとる著者は、この海底に蒙古襲来の遺品が残っていると考え、海底遺跡の全貌を明らかにし、蒙古襲来の実態を解明しようと動き出す。

 

本書の魅力は、何といっても海底遺跡の実態に一手一手迫っていくそのプロセスにある。著者は対象エリアの海底地形図を作るため、音波探査(海底に向けた音波の反応で地形を知る技術)の専門家の協力を得る。これで海底の異物も検出しようとするが、反応した地点で出土しない。その都度原因を究明し、必要なら別分野の専門家に協力を求める。こうして考古学・音波探査・中世史・地質学・造船など多くの分野の知見を踏まえたプロジェクトへの発展していく過程が、興味深い。

 

ところで発見した軍船はそのまま海底に残し、木材を好むフナクイムシから保護する処置をほどこして帰ってくる。なぜ丸ごと地上に引き上げて見せようとしないのか思っていたら、本書の最後にその理由が明らかに。なかなかそう簡単にはいかないらしい。本書には出土品の詳細な説明や写真・スケッチ画もついている。今はこれでイメージを膨らませるとしよう。

 

専門的になりがちな調査機器や技術を素人にもわかりやすく説明し、蒙古襲来の経緯・経過にはしっかり1章を充て読者の理解を助ける。平成最後の12月に出現した快著、ぜひご一読を。

 

(吉川弘文堂、201812月刊、1,800円+税)

 

(追記)フナクイムシ、ご存知ない方は画像検索してみてください。その姿に、私は小さく叫んでしまいました。(2019.01.28)