
- 作者: ジュディス・フランダース,伊藤はるみ
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2018/11/15
- メディア: 単行本
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皆さんは、クリスマスの歴史と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。私などは「イエス・キリストの生誕日で、昔は神聖な宗教儀式だったが、徐々に世俗的なお祭りへと変化したのでは?」位に考えていた。本書に出会うまでは。
本書は、膨大な資料を手がかりにクリスマス史の解明を試みる。そして(私の思っていたような)常識とは全く異なるクリスマス史を読者に提示する。クリスマスはどのように発生し、世界を席巻し、現在に至るのか。サンタクロースとはいったい何者なのか。
クリスマスの発祥については、まず日の設定自体、キリスト生誕日ではなく、元々あった冬至祭に合わせたものだという。そういうわけで、クリスマスには宗教色が弱かったどころか、路上で、屋内で、民衆が大騒ぎをするイベントであった地域もあったようだ。
何だか意外なクリスマスの出生譚だが、その後、派手な祝い方が為政者により禁止されたり、キリスト教の戒律の中で抑制されたりと、苦難の歴史も。しかし人々はお上のお触れをやり過ごしたりしながら、クリスマスは形を変えながらも確実に引き継がれていく。
サンタクロース、クリスマスツリー、子供へのプレゼントといった習慣が今日のようになった過程を描く部分、特に20世紀以降について書かれた部分(第11章以降)が圧巻。ある百貨店のキャンペーン、ある雑誌の挿絵、そんな情報が人々に受容され、あたかもそれが大昔からの伝統であった、という信仰を生んできた様子が豊富な事例により描き出される。
著者はイギリスの歴史家。文中、ヨーロッパ史の知識を前提にしている箇所もあり、そのあたりの歴史に関心のある方なら尚更楽しめるだろう。
はっきり覚えていないが、おそらく小学2年生頃までサンタの存在を信じていた。やがて自分がサンタとなり、その役割も終わった。いずれももう二度と帰ってこない日々だと思うと切ない。しかし今では本書のような書籍に接して、クリスマスの歴史を辿る時間旅行ができる。年齢を重ねることも悪いことばかりではない。クリスマスにそんな郷愁を感じる方々、ぜひ本書を手に取っていただきたい。
(原書房、2018年11月刊、2,800円+税)