負け犬の読書灯 〜本はいい。無秩序にご紹介〜

今日か明日、書店に行きたくなる書評

【書評】残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうか? [著]中原淳+パーソル総合研究所

残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)

残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)

「残業の縮減」。本来希望に満ちたフレーズのはずだが、聞くと気が重くなる人も多いだろう。「縮減に取り組んでいるのに減らない」「残った業務はどうするんだ」。残業は根深い。どの組織にとっても見直しは単純な仕事ではない。

本書は、残業の発生原因と解消への手がかりを模索する、その名も「残業学」。企業で働く2万人以上ものデータをもとに、その知見が現場で実際に活用されることを意識して著されている。組織で働くすべての人、とりわけマネジメント層にお薦めする。

本書前半では、残業文化が発生し、組織で広がり、受け継がれる仕組みを明らかにする。残業代が手放しがたい収入となったのはなぜか。自分の仕事が終わっても帰りにくいのはなぜか。長時間頑張る人が評価されがちなのはなぜか。現場で起こっている不都合な事実の数々をデータから読み取り、残業問題の全体像を読者と共有する。

後半は、いよいよ残業時間削減の方策である。様々な残業削減施策がどうして機能しないのかを論じる部分は、経営層・マネジメント層には耳の痛い話だ。でも説得力がある。残業時間削減に向けた現場レベル・会社レベルそれぞれの改革のアイディアが分かりやすく説かれ、明日からでも始めたくなる。

特に考えさせられたのは、長時間労働と幸福感についての部分。残業時間が月60時間を超えると、健康状態が悪化する人の割合は確実に高まる一方、そんな生活に「幸福」を感じる人の割合も少しずつだが高まることが示される(ただし平均値は下回る)。これは自分にも経験がある感覚だ。著者は「超・長時間労働とは一種の依存症に近いもの」と評する。長時間労働をくぐってきた人、特にマネジメント層は、この危険性を知る必要があると気づく。

著者の中原淳教授は人材開発、リーダーシップ開発の専門家。曰く、読者には「『仕事』が働く人の『希望』となるような職場づくりに挑戦して」ほしい、と。講義形式で親しみやすい記述の中に、残業対策への行動につながるものの見方、考え方が満載。ぜひご一読を。

(光文堂新書、2018年12月、920円+税)