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【書評】幸福のヒント [著]鴻上尚史

幸福のヒント (だいわ文庫)

幸福のヒント (だいわ文庫)

気がつけば人生の相談をできる相手はいなくなっていた。自分で考える歳になったということだ。しかし凡夫のこの身、はしたなく悩むこともある。そんなときは書籍に知を求めることになる。鴻上氏の著作は、私の相談相手の一人だ。

 

本書は、前著『幸福のレッスン』を改題・加筆修正したもの。テーマは「自分は何を幸せと感じるか」。若い人から人生経験の長い人も、自分に引き付けて読むことができる。気づき、元気、そして切なく爽やかな諦観を得られるだろう。

 

私たちは、うまくいっている(ように見える)他人や、あるべき自分像と、今の自分を比較して、不甲斐ない今の自分をはかなむ。鴻上氏は、そんな傾向にも理解を示しつつも、しかしそういう比較論から離れて、今の自分が何を楽しいと思うか、何をしたいか、に集中しようという。

 

こういうと何か赦しの思想のようにも聞こえるが、では今の自分というものを本当に把握していますか、という点について、鴻上氏はシビアである。1章ではまず「どうにもならないこと」への執着をやめろという。1415章では、今の自分の能力や位置を徹底的に客観視する必要性とその方法を説く。

 

氏の論は「あなたはあなたのままで輝いている」という気休めではない。「頑張ればいつかきっと報われる」という中途半端な励ましもない。個人として自立し、その先に、過去の自分や、他人に影響されない、今の自分の居場所を見つけるという、大人の幸福論である。

 

少し重い話になったが、本書に満載される考え方のヒントは納得性が高く、とっつきやすいので、今日から試してみよう、と思わせるものがある。私としては、特に38章「10年先から戻ってきたと考える」が印象的だった。

 

鴻上氏は舞台公演、小説など幅広く手掛け、NHKBSの番組では長く司会を務める。読みやすく静かな文体に、人間に対する優しい視点。全45章だが、全体を読んだら「文庫版あとがき」を、どうか忘れず読んでほしい。

(大和書房、2018年10月、680円+税)