負け犬の読書灯 〜本はいい。無秩序にご紹介〜

今日か明日、書店に行きたくなる書評

【書評】フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ [著]笹原和俊

デマが社会を混乱させることは大昔からあった。しかし、最近のネット上の偽ニュースは少し様相が異なる。速く遠く拡散し、深刻な対立を引き起こす。一国の政治経済に影響を及ぼすことさえある。

 

著者は計算社会科学の成果を用いて、この「フェイクニュース」にまつわる諸問題を読み解く。一般向けの平易な記述の中に、SNSやインターネットと切り離せない生活を送る方にとっての納得や驚きが詰まった一冊だ。

 

人が偽ニュースを信じてしまうのはなぜか。著者はその要因に、私たちが持つ、見たいものだけを見たいように見てしまう、などの心理上の特徴を挙げる。(ちなみにそのすべてが自分にも当てはまることに気づいた。)さらに、偽ニュースを訂正する真情報が、逆に偽ニュースへの固執を引き起こすというやっかいな事実も指摘する。

 

ところで、SNSでは気に入った情報は取り込み、人に紹介もできる。気に入らない情報や相手は自分の世界から排除できる。著者らは、これらの機能が偽ニュースの拡散や、個人・社会の意見形成にどのような影響を与えるかを究明する。ユニークな実験であり、この結果を含めてどうか直接本書で確認してほしい。

 

さて、多くの情報に接すれば正しい判断に導かれるかというと、そういうものでもないらしい。大量の情報が次々にやってくる状況では、注意力が鈍り、うそや扇動的なニュースに拡散のチャンスを与えてしまうことが、実験で明らかにされる。

 

偽ニュースをゼロにはできないとしても、悪影響は見過ごせない。最終章では偽ニュースから身を守るための取組みが紹介される。人工知能AI)に真偽を判定させる研究まで進んでおり、今後に注目だ。

 

本書を執筆したきっかけは、フェイクニュース問題で騒然とする2016年の米大統領選挙の時期、アメリカに住み、当時の状況を経験したことだという。そのせいだろうか、研究者らしい抑えた文章全体から、リアルな現実社会のにおいを感じる。本書をネット社会に生きる教訓として読むもよし。はたまたテクノロジーと人間心理が交錯するネット社会の最新研究を楽しむもよし。本書の味わい方は自由だ。

 

(株式会社化学同人DOJIN選書]、201812月、1,500円+税)