
- 作者: 見世物学会・学会誌編集委員会
- 出版社/メーカー: 新宿書房
- 発売日: 2018/11/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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まず、表紙のモノクロ写真が目を引く。場所はサーカス小屋の裏か。舞台衣装に大きな頭飾りをつけた中年女性と、ワンピース姿のチンパンジーがこちらを見ている。しみじみと眺めていると、二人がすぐそこにいるような錯覚が生じる、妙な写真だ。内容に期待が高まる。
本書は「嗅覚に優れた見世物マニアと話がしたい」との呼びかけに集まった人が設立した、見世物学会の学会誌の第7号。テーマは見世物一色。執筆者たちが(設立趣旨どおり)マニアックな視点で関心分野を深めている。本号のテーマに関心のある方はもちろん、その独特な世界がどんなのか少し気になる、という方にもお薦めしたい。
所収のレポートは多数にわたる。いくつかご紹介したい。
女相撲は、昭和30年代後半まで国内外で巡業されていたという。ここでは、明治期の一座の立ち上げから日本各地への巡業の様子が描かれる。注目すべきは、見世物である女相撲を巡業した先の郷土文化に、その影響を思われる風習が残っている事例あり、との指摘だ。亀井氏には女相撲に関する別著があり、そちらも併せ読みたいところ。
細馬宏通「浅草十二階の見世物性」
明治23年の東京に現れた12階建の高塔、浅草凌雲閣、通称浅草十二階。その建設から関東大震災による倒壊、解体までの約33年間を、「見世物」という視点から解き明かす。塔の内外を見せる側・見る側の興味や欲望、理想と現実を、豊富な資料から明らかにする。
林幸治郎「歩く広告見世物?チンドン屋の迷宮に迷い込んでの物語」
これも読みごたえあり。立命館大学在学中にチンドン屋の活動を始め、卒業後すぐにプロの世界に飛び込んだ林氏。自身の半生、チンドン屋の歴史と実態、仕事への自身の思いを語る。
出来事やモノは、放っておけば案外あっさり人の記憶から消えてしまう。それを「嗅覚の優れた見世物マニア」たちが発見し、読み取り、慈しんでいる。それぞれの原稿は短めで、図や写真が多く、見ているだけでも楽しい。参考文献を手掛かりに深掘りし、更なる深みにはまってみたい。そんな欲望をもかきたてる一冊だ。
(新宿書房、2018年11月、2,000円+税)