負け犬の読書灯 〜本はいい。無秩序にご紹介〜

今日か明日、書店に行きたくなる書評

インドネシア最高の文学!【書籍の紹介】人間の大地(上)(下) [著]プラムディヤ・アナンタ・トゥール [訳]押川典昭

人間の大地 上 人間の大地 上 (プラムディヤ選集 2)

人間の大地 上 人間の大地 上 (プラムディヤ選集 2)

あまたの書物を渉猟し尽くし、新たなジャンルをお探しの読書愛好家の皆さま。

はやりの小説はちょっと…。でも何か読みたい、という皆さま。

インドネシア文学は、いかがでしょう。

 

著者プラムディヤ・アナンタ・トゥール(1925-2006)は、1965年の政変で政治犯として拘束され、69年からの10年間は流刑生活を送る。本作品は強制労働の日々、他の受刑者に語り聞かせた物語を釈放後の1980年に出版したもので、以来約40年を経て今も読まれている。

 

舞台は19世紀末から20世紀初頭、オランダ統治下のジャワ島。生粋のジャワ人である主人公ミンケは、エリートヨーロッパ人向けの高等学校に通う。オランダ語を身につけ、学業成績は抜群。彼はヨーロッパ文化にあこがれ、あたかもオランダ人のようになろうとするが、学内では、現地人であることから嫌がらせやあざけりも受ける。

 

ミンケは、招かれた同級生宅で出会った妹アンネリースと恋に落ちる。アンネリースの母ニャイはヨーロッパ人実業家が迎えた現地妻で、当時は支配層・被支配層の双方から蔑視される存在であった。しかし聡明で、オランダ語を操り、経営にも長け、夫が顧みなくなった広大な農場を切り盛りする。物語を通じ、ミンケへの助言者、理解者となる。

 

ほどなくミンケとアンネリースは結婚。だが平穏な生活は長く続かない。アンネリースの父の死後、彼がオランダに残してきた息子が、亡父の遺産相続(全財産の引き渡し)と、何とアンネリースの引き渡しを求める。ミンケらは対抗措置に出るが、入植者の法に基づき手続は進む。どうするミンケとニャイ、どうなるアンネリース。

 

本作は、ミンケをめぐる長編4部作の第1作目である。古きジャワ文化の匂いや音まで感じられそうな描写を背景に、オランダ支配体制とジャワの旧習の中で生きようとする登場人物を丁寧に描き、今に問いかける。

 

そんな魅力が国内外の心をつかみ、これまで映画化や翻訳出版がされてきた。インドネシアでは新たな劇場版が近日公開とのこと。日本語版4部作は押川典昭氏の翻訳であり、氏はこの業績により第59読売文学賞2007年)を受賞している。

 

本の帯には「インドネシア最高の文学」と大書。コピー負けしない作品、どうぞ皆さまも。

(蛇足:作品の舞台ジャワ東部は、私Tetsuzanがかつて一時期を過ごした第二の故郷でもある。)

 

(めこん、上下巻とも1986年、各1,800円+税)