
- 作者: ダニエル・C・テイラー,森夏樹
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2019/01/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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未確認生物をめぐる論争はすっきりしないことが多い。肯定派が持ち出す証拠は(有名なネッシーの写真のように)大抵、決め手を欠く。他方、存在しないという証明も容易ではない。そんな中、ヒマラヤのイエティ伝説に説得力ある結論を提示する論考が現れた。
本書は、イエティの謎解きを中心にしつつ、南アジア山岳地帯での経験や思索を織り交ぜた回顧録でもあり、提言の書でもある。イエティの謎解きに興味がある方はもちろん、自然環境や、世界の地域文化に関心のある方にもお薦めしたい。
アメリカ人の著者は、少年期にインドのジャングルの傍で過ごす。11歳の時に現地の新聞で謎の足跡の写真を目にし、イエティ調査にのめりこむ。現地の言語も習得しながら50年で踏査した距離、実に2,400㎞以上。タフな男である。
現地では、森に住む人の伝承がある。ただイエティの証拠として公表されてきたのは足跡のみ。著者はイエティの痕跡を求めて山中を巡る。そして本書中盤あたり、謎の足跡の正体について、著者の仮説が示される。後半の検証を経て、いよいよ仮説は確信へと変わる。
山や現地の人々との交流を経て、彼の関心はイエティ探しから、伝説を抱く豊かな自然の保護へと広がっていく。それは、単に保護区だといって立入禁止にするのではなく、人々の生活に野生を取り入れ、共に生きる思想だ。彼の理念は実際の国立公園の整備に生かされているという。
イエティや山にまつわるエピソードも興味をひく。高速道路の脇に、せっかく手に入れた証拠品や写真一切を置き忘れた話。ネパールの山中進行時に途中の村で自分の来訪がなぜか予言されており、着くなり歓待されて驚いた話。そんなエピソードもきまじめに記述されている。
さて、ここまで何とか、イエティの謎に関する著者の結論を言わずに来られた。どうか、本書を読んでこの解明に立ち会っていただきたい。
(青土社、2019年2月、538頁、2,800円+税)