
居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)
- 作者: 東畑開人
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2019/02/18
- メディア: 単行本
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不思議なタイトルの本書は、精神医療の専門誌『精神看護』で連載された作品の単行本化。京大博士号をとったばかりの臨床心理士である著者が、精神科クリニックのデイケア施設で勤務した4年間を描く。
独特の軽妙な文体で読みやすい。施設での出来事をいきいきと、ときにコミカルに描く。専門用語には丁寧な説明が付されている。門外漢の私でも読み通すことができた。また、著者を含む登場人物の内心への洞察や、わが国の精神医療の在り方にはかなり思い切った考察を加えている。プロや学生の方にも読む価値ありの一冊だ。
大学院修了時、著者は就活に苦労する。教職や研究職に背を向け臨床現場への就職にこだわったものの、コネもツテもない。しかも妻子持ち。焦りの中、偶然目にした好条件に惹かれ、沖縄の精神科クリニックのデイケア施設に就職することになる。
野心に燃える著者の初仕事は、統合失調症の施設利用者の傍に「とりあえず座っていること」。日常業務は一緒にゲームや野球や料理をすること。喧嘩の仲裁。求められるのは傍に寄り添い日常の困りごとの世話をする「ケア」であり、彼が究めたい「セラピー」(心の深層に入り課題解決する技法)ではなかった。彼は退屈し自らの選択を後悔する。
失敗もしながら仕事をこなし続け、次第に居場所を見つける著者だが、同僚が次々と転職していく中、ある出来事をきっかけに彼も職場を去ることになる。入職4年後の春である。最終章では、社会生活に困難のある人にとって、ただ純粋に居場所が欲しい、という願いがいかに実現されにくいか、という問題を論じる。
本書の舞台であるデイケア施設、利用したり、仕事で関わったりすることがなければ外から実情は見えにくい。著者は体験をベースにしながら、読者にその扉を開いている。素人には敷居の高くなりがちな分野だが、著者自身が4年間の経験をどこか楽しんでいるところがあって、加えて気さくな文体で、読者を引き込むことに成功している。随所に登場する挿絵もセンスがいい。
(追記)操作を誤り同じ記事を再度アップしてしまいました。
(2019年2月発行、医学書院、2,000円+税)