
- 作者: 小泉信一
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2019/03/07
- メディア: 単行本
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「エロやいかがわしい世界と共存していた昭和という時代を忘れてはいけないのではないか」(本書あとがきより)。昭和どころか平成が終わろうとしている今、本書は正史には残らない戦後の「裏」昭和史を振り返る。
夜の風俗関係、未確認生物、UFOの3章立てだが、やはり全体の8割の紙幅を充てる「夜の街をたどって」の章が読み応えあり。昭和に哀愁を感じる世代の方はもちろん、妙に力強いけどどこか珍奇で切なさをも感じる昭和ウラ文化を覗いてみたい方に、お薦めしたい。
「夜の街をたどって」の章では「額縁ショー」「秘宝館」「テレクラ」「日活ロマンポルノ」など実に30項目を取り上げる。それが社会に登場し、流行り、そして消えていった経過を、丹念な調査で描く。実際に現場を回り、関係者への取材を通じて、当時の温度感を再現することに成功している。
とりわけ衝撃的だったのが「のぞき部屋」。「円形の劇場を囲むように、20ほどの個室があったという。各個室には、背伸びして見るような高いところと、寝そべって見るような低いところの2カ所にのぞき穴があった。」20人の男性が様々な姿勢で室内の女性を覗いている情景を想像していただきたい。捜査の手が伸びると、客にスケッチブックと鉛筆を渡し、デッサンのためのアトリエだと主張したという。
本書を読むと、生きること、儲けること、そして性に対する人間の貪欲さとたくましさを感じてしまう。際どいテーマを扱っているが、「イジり」と知的探求の視点が上手く共存し、男女問わず案外幅広い層に支持されるのではないかと思われる。
さて、本書で昭和への郷愁が喚起された私が今聞いているのは、アルバム『絶対チェッカーズ!!』(昭和59年)。好きだった昭和歌謡をBGMに本書を楽しむのも良いのでは。勿論、平成世代のあなたも一度手に取ってみてください。
(2019年3月、朝日新聞出版、1,300円+税)