負け犬の読書灯 〜本はいい。無秩序にご紹介〜

今日か明日、書店に行きたくなる書評

【ブックレビュー】おにぎりの文化史 おにぎりはじめて物語 [監修]横浜市歴史博物館

「おにぎりは、日常のありふれた食べ物である。しかし、そんな『当たり前』の存在にもそれぞれの歴史がある。」(「はじめに」より)

 

本書は、2014年に横浜市歴史博物館で開催された、おにぎりを切り口にした企画展の資料を充実の上、書籍化したもの。遺跡の出土品や絵画・書物に現れた「おにぎりっぽいもの」の痕跡を手掛かりに、おにぎり、ひいては日本の米食文化の歴史に読者を誘う。

 

127頁とコンパクトながら執筆・監修陣の遊び心が満載。パラパラっとめくって好きなところから読める。一方コラムでは米食を巡る最新の研究成果を、巻末には豊富な参考文献を紹介し、深く知りたい読者も満足できるはず。多くの方が楽しめる一冊だ。

 

1章におにぎりの呼称と形を1983年と2003年で比較した結果が示されている(何でも調べようとする人がいるものだ)。これによると、83年には少数派のおにぎりという呼称と三角の形状が、20年後には全国の主流となっている。おにぎりの商品化も一因だろう。

 

2章では中世以降の書物や絵画におにぎりの姿を追う。室町時代の『酒飯論絵巻』では、頭髪の寂しい男性が黙々とご飯を握っている。

「詞書では『鳥の子』と呼ばれており、卵形をした大形のものだった」そうである。

 

3章では遺跡から出土した炭化米塊を多数紹介。一見おにぎりでも調理前の米の可能性もあり外見上の判断は難しいが、本書はその判別を試みる。米の配列、もみ殻の有無の調査の他、CTスキャン分析まで行い、おにぎりかどうかや、保存方法等を検証する。

 

4章では土器で炊いたご飯でおにぎりが作れるか、実験する。土器の出土状況や表面に残る吹きこぼれ跡から炊飯方法を推定し再現を試みるが、その結末は?

 

米やご飯というすぐに土に還ってしまいそうなものが、何らかの事情で分解を免れ、現在までその姿を残している。出土した米塊を見ていると、それを炊いたり握ったりした祖先を身近に感じる。

 

本書読了後、コンビニおにぎり達に畏敬と愛着の念を感じるようになった。おにぎりよ、今日もありがとう。

 

河出書房新社20194月、1,650円+税)