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イントロに、ドラマありすぎ

【本の紹介】イントロの法則80’s 沢田研二から大滝詠一まで [著]スージー鈴木

文藝春秋、2018年10月刊、215頁、1,400円+税)

 

イントロの法則80's 沢田研二から大滝詠一まで

イントロの法則80's 沢田研二から大滝詠一まで

小中学校時代を過ごした80年代、ラジオから流れる歌謡曲をカセットテープに録音し続けた時期がある。父や姉のラジカセを拝借し、録音ボタンに指を置きイントロを待つ緊張感。本書を読みながら、そんなことを思い出した。

 

「日本音楽史上最強時代だった」80年代音楽の40のイントロを「今さらながらに真正面から受け止め、その『最強性の』高さ・広さ・奥行きを、しっかり測定」すると、著者はいう。80年代の歌謡曲への思い入れだけでなく、聞いた瞬間の良さ・すごさ、作編曲・演奏上の技巧の分析、制作上のエピソードを冒頭の宣言どおり「しっかり測定し」、1曲数頁の中で濃密に表現。取り上げるミュージシャンも、沢田研二といった古株から、90年代にも中心を張る米米CLUBあたりまで、幅広い。

 

80年代のイントロにインパクト部門があれば、1位は少年隊「デカメロン伝説」(1986年発売)だと思っていたら、本書でも採り上げられていた。若い方もきっと一度は聞いたことがあるだろう。唐突な「ワカチコ!」という謎フレーズと、「ドレミラーミレド・ラシドミードラソ」という音階そのままのフレーズ。ワカチコ!の由来には諸説あるらしいが、ギターのカッティング音の表現であることは間違いないと著者はいう。そして「21世紀に入って最後的に、お笑い芸人・ゆってぃの『小さいことは気にするな、それワカチコ・ワカチコ!』に結実することとなる」のだ。

 

著者が高評価する大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」(1984年発売)は、当時小学生の私にはどこか陰気に感じられた。本書に触発され久々に聴いてみることにした。静かさの中に都会の孤独感が迫るイントロ。ことばに無駄がなく、クールだけどナイーブな歌詞。この曲の良さに気づくには私は幼すぎたのだ。著者は、本作品が編曲者大村雅朗氏にとって、渡辺美里My Revolution」への「実験作」であったと分析している。確かにシンセサイザーの音色と特徴的なコード進行は「My Revolutionで洗練されているように思える。意外な接点をみる。

 

音楽はどうしてこうも聴いた当時の思い出と結びつきやすいのだろう。各曲の解説に、当時の著者自身の思い出が時々顔を見せるが、これがまた良い。上京して最初に買うと決めていたのが新田恵利「冬のオペラグラス」だったという話、早見優を「世界で一番美しい生物」と信じていた高校時代の話など、意外とかわいいエピソードが潜んでいる。

 

このように本書は、ただの懐古趣味には陥らず、同世代を超えた層の好奇心をそそる分析と、それでいて温かみのあるイントロ評論の詰め合わせである。読み返しては聴き、聴いては読み返し、親しく付き合える一冊だ。

イントロには、作った人にも、聴いた人にも、それぞれのドラマがある。ありすぎる。