【書評】スカルノ インドネシアの民族形成と国家建設(世界史リブレット人92)[著]鈴木恒之
(2019年4月刊、山川出版社、800円+税)

スカルノ:インドネシアの民族形成と国家建設 (世界史リブレット人)
- 作者: 鈴木恒之
- 出版社/メーカー: 山川出版社
- 発売日: 2019/04/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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4月に行われたインドネシア大統領選挙で、選挙スタッフ550人が過労等で亡くなったという(2019.5.17 BBC NEWS JAPAN。ただし人数を異にする別報もあり。)。痛ましい。第7代大統領ジョコ氏の再選の確定後には暴動が発生したり、落選候補者が選挙無効を訴えたりと、落ち着かない。建国して70年以上だが、国民投票で大統領を選ぶのは2004年からで、今回が4回目。選挙の実施方法や結果の受け止め方は、時間を掛けて落ち着くだろう。
そのインドネシアの初代大統領が、本書の主人公スカルノ(1901-1970)である。今でも国民の英雄だ。20代で民族主義運動のリーダー格となるが、植民支配者のオランダに目をつけられ、逮捕・流刑を経験。日本軍による占領時代を経て1945年8月、インドネシア独立を宣言。以来、大統領として君臨するが、1965年「9月30日事件」をきっかけに失脚、1970年に病死する。
自らの信ずる民族独立運動に人生の全てを投じた、タフな男である。本書はその一生をコンパクトに語り、多数の写真でイメージを助ける。
現地では彼を建国の雄と称えながら、9月30日事件に総括される失政には批判的だ。9月30日事件とは、陸軍の一部将校が軍高級幹部6名を殺害、放送局等を占拠した事件である。制圧軍を率いるスハルトはこれを共産党によるクーデターと断定、党員や支援者への凄惨行為が全国で発生した。共産党を擁護し支持を受けてきたスカルノには一連の大騒動の責任がある、と批判されるのである。
スカルノから政権を奪取したスハルトだが、根強いスカルノ人気を消去できなかった。本書では、スハルト大統領が1980年代からスカルノ人気を拝借する政策にシフトしたとされる。そして皮肉なことに、「八〇年代をつうじてスカルノ人気は高まり続け、彼のイメージは反スハルト体制の象徴となっていった」のである。
スカルノは、人民の指導者による「指導される民主主義」を提唱した。他方でインドネシア独自の民族主義をもうたい、更にその基礎には社会主義、共産主義の思想がある。本書で彼の生い立ちをじっくり辿り、込み入った思想や主義が生まれてきたわけを少し理解できたような気がする。
さて、スカルノが大統領になったのは私とほぼ同年齢の頃。しがない自分を顧み、恥ずかしい思いがする。「ぼーっと生きてんじゃねえよ」(Kehidupanmu cuman kehabisan waktu dengan sikap malas.)とか言われそう。言わないか。