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「アヴェロンの野生児」事件の真相は?

【書評】謎解きアヴェロンの野生児 [著]鈴木光太郎
(2019年6月発行、新曜社、178頁、1,800円+税)

謎解き?アヴェロンの野生児

謎解き?アヴェロンの野生児

1800年1月8日、暗く寒い朝のこと。場所はフランス・アヴェロン県の村。身元不明の少年が家に入り込んでいるのを主人が見つける。ただ、どうも様子がおかしい。真冬だというのに、少年は裸足にぼろぼろのシャツ1枚で、会話は通じない。通報を受けた郡委員は直感した。少年は社会から隔絶され自然で育った野生児に違いない。彼が一体どういう子なのかよくわからないまま、野生児発見のニュースはフランス中に拡散。民衆は世にも珍しい野生児を一目見ようと大さわぎ。少年を研究や教育の対象にしたい人々の争いにはフランス政府まで介入する展開になる。

この少年こそ「アヴェロンの野生児」として知られる人である。実験心理学者である著者は当時の報告書や後世の研究成果を読み込むも、多くの疑問を感じ取る。そもそも少年は野生児だったのか。なぜ1800年という時代に騒動が起こったのか。発見後、誰がどのように少年に関わり、少年はどんな一生を送ったのか。著者は自らその解明に乗り出す。

著者は、多くの資料を分析する知性と、事実と事実のすき間を埋めていく、豊かな知識に裏づけられた推論を駆使し、事件の全体像を描き出す。政治・社会情勢、関係者の人間関係や思惑など、研究の戦線をどんどん拡大する手法は、以前の作品である『オオカミ少女はいなかった』(新曜社、増補版はちくま文庫より)でも披歴されたが、今回も冴えわたっている。


『オオカミ少女は…』は、オオカミに育てられたというアマラとカマラの物語や、サブリミナル効果など、いまだ生き残る心理学上の8つの「神話」を検証する、クールな作品集である。


アヴェロンの少年の話に戻ろう。少年は野生児などではない、という説は発見当時からあった。最近の研究で、自閉症的特性も指摘されているようである。訓練で多少向上した能力はあったが、発見から5年後には世間や教育界・学界も少年に興味を失う。世に翻弄された末、飽きられる。現代でも聞くような話である。

一般向けに読みやすく書かれた全178頁のドキュメントの中に、学問の香りも漂う。一生に一度でいい。こんな謎解きものを書き遺せたらいいな。そんなあこがれさえ覚える一冊である。