本の山 〜お薦めの本、山積みに〜

今日か明日、書店に行きたくなる書評

かぐや姫『僕は何をやってもだめな男です』(1972年:伊勢正三作詞、よしだたくろう作編曲)

今週のお題「わたしの好きな歌」

大学1回生の12月、下宿を始めた。風呂なしの6畳一間である。必要最小限の家財をかき集めたが、カーテンに気が回らなかった。暖房器具とカーテンがない神戸の冬は想像以上に寒かった。

 

そして、お金がなかった。新しいバイトを見つけるまで、ジャガイモを食べたりしてしのいだ。大学には毎日通ったが、学問をものにできるか不安だった。体育会系のクラブでの戦績は中の下。そんなぱっとしない貧乏学生と仲良くしてくれるもの好きな異性など、もちろんいなかった。

 

そんなある日、CDショップで一枚のCDを見つけた。フォークバンド「かぐや姫」のベスト集である。ある曲のタイトルに目を奪われた。

「僕は何をやってもだめな男です」

まさしく今の俺のことではないか。かぐや姫といえば「神田川」の印象だった。マイナーコードで抒情的なフォークソング南こうせつが人生や恋の苦しみを切なく歌う様子が目に浮かんだ。今の気持ちをしんみりと共感できる曲に出会えた、と思った。ぜひ聞きたい。貴重なお金を払い、下宿に帰り、CDプレイヤーにセットする。他の曲をすっ飛ばして、再生。

 

はじめ、何かの間違いかと思った。妙に軽快なテンポで、エレキのリードギターが鳴っている。きっと曲を間違えたのだ。確認しようとすると、歌詞が始まり、これこそがあの曲であることがはっきりした。

「ぼくーは なにーを やってもー、だめーな おとこですぅー」

2,3人の男性が、甲高い裏声で、確かにそう歌っている。明らかにおふざけである。そこから先は、犬におしっこをかけられただの、パチンコでチューリップが開かなかっただの、機動隊に小突かれただの、嘘か本当か分からない、正直どうでもいいような失敗談が、ただただ軽快に続く。

 

お前の悩みなんかこの程度のもんだよ、と言われたような感覚だった。恥ずかしかったが、爽快だった。

その後も私は相変わらずぱっとはしなかったが、何とかその冬を越し、今なお生かしてもらっている。

あれから20数年が過ぎた。例のアルバムは手元にある。今でもときどき聴いている。

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https://www.youtube.com/watch?v=MTTFRM8E6fc