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忍者の、理想と現実と

【書評】忍者の精神 [著]山田雄司

20195月、KADOKAWA199頁、1,700円+税)

 

忍者の精神 (角川選書)

忍者の精神 (角川選書)

忍者は確かにいたらしい。しかし、黒ずくめの姿で屋根裏に潜み、手裏剣で戦い、煙幕を張って逃げる、というのは仕事の本質ではなくて、メインは日常的なスパイ活動だったようだ。彼らの業績が歴史に明記されることはない。しかし伊賀や甲賀には、忍者の仕事内容、必要な知識、心がまえを記す文書が残っているという。さて、どんな事が書いてあるのか。

それによると、忍者といってもいろいろで、敵国の公務員を取り込むもの、敵国のスパイを寝返らせるもの、死を覚悟で敵国に乗り込みかく乱させるもの、など5種類に分類されたとのこと。スパイ要員を獲得するノウハウまで残っている。例えば敵国からのスパイを寝返らせる場合、相手の求める金や地位をまず与え、恩義を感じさせた後に本心を語らせれば、こちらになびきやすい(返報性の原理か)など、今日の心理マニュアルさながらの記載。今も昔も案外、人は変わっていないのかもしれない。

「忍」の字に対するシノビの者のこだわりは強い。心に刃を突き立てる覚悟を持てとか、心の乱れを刃で断つ、といった教訓に導く。終始こんな感じで、理想とされる忍者像は禁欲的で忠誠心が強く、そんな自分をひけらかさず、かつ相手の心理をうまく衝いて臨機応変に動ける人、であったようだ。もっとも、条件をすべて満たせる人は少ないともされているが、これが採用基準なら私などまず忍者にはなれなかっただろう。

そんな忍者の気高さに「これぞCool Japan!」と快哉して読了するはずだった。が、しかし。巻末の「おわりに」で、忍者だけにどんでん返しが待っていた。詳しい紹介は避けるが、報酬に貪欲な忍者、家庭第一の忍者の実態が指摘されている。そもそも古文書が忍者の精神を繰り返し説くのは、どうやら江戸の初期、忍者業界のマインドの面での立て直しが必要とされていたからであるようだ。

そんな背景をも垣間見ると、著者が言うとおり「忍者であるからには逃げられない運命を背負って、それでも愚鈍かつ実直に生き抜こうとした『人間くさい』姿が思い浮かんでくる(p.193)」。本書は、馴染み深いわりにはよく知らない忍者、ひいては近世日本人の一端を知るための良書である。