【書評】脱毛の歴史 ムダ毛をめぐる社会・性・文化 [著]レベッカ・M・ハージグ [訳]飯原裕美

- 作者: レベッカ・M・ハージグ,飯原 裕美
- 出版社/メーカー: 東京堂出版
- 発売日: 2019/07/11
- メディア: 単行本
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(2019年7月発行、東京堂出版、343頁、3,200円+税)
人間の体毛は不思議だ。濃さに個人差が大きく、密集する部位も偏在している。存在理由もはっきりしない。人はそんな体毛とどう付き合ってきたのか。舞台は主にアメリカ。時代は1700年代から現在までである。
アメリカだけを見ても、体毛をめぐる価値観の移り変わりは複雑であることがわかる。大陸への入植者は、体毛をきれいに抜去する現地の習慣を、野蛮で劣ったものとみなした。だが当のヨーロッパでは、すべすべのお肌が女性の最高の価値と考えられていた。除毛薬の誤用による死亡例もあったという。当時の脱毛は命がけであった。
19世紀半ばに進化論が発表されると一転、体毛が極端に濃い人は進化前の特徴を残した先祖返りだとの説が流布する。この認識は後世に絶大な影響を与えたようだ。T字カミソリが開発されて安全なムダ毛処理が可能になったのが20世紀初め。新しいムダ毛処理技術も次々に開発される。1920年代頃までの一時期、X線による脱毛がはやったことに驚いた。被曝の知識が不十分な時代、結局、健康被害が続出し禁止される。電気針によるムダ毛処理の写真(1942年頃?)では、女性のあごに10本以上の太い針を突き立てている。見ていて不安になる光景。かくも危険な脱毛に駆り立てられる風潮が100年近く前から彼の地ではあったのである。
1970年代には社会規範からの解放を目指し、女性よムダ毛処理をやめようという運動が起こるものの、脱毛志向は、性別や世代を超えて広く浸透していく。日本でも同じだ。ワックスやレーザー脱毛の先には、発毛をつかさどる遺伝子情報の操作によるムダ毛の抑止も可能といわれているという。
全編とにかく脱毛・ムダ毛とその周辺問題を徹底的に深掘り。レーザー脱毛を論じる箇所では、技術的な解説に加え、医師の葛藤(収入が欲しいがこれが本当に医業か、といった)、サービス提供側の広報戦略、などにより立体的に示す。著者がいかに多方面に調査をしてきたかは、巻末に挙げられた協力者への感謝が実に5頁に渡っていることからもうかがえる。翻訳も読み易い。