【書評】中世なぞなぞ集 [編]鈴木棠三
(2019年7月重版(1985年5月初版)、岩波文庫、454頁、1,130円+税)

- 作者: 鈴木棠三
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1985/05/16
- メディア: 文庫
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タイトルのなぞなぞは江戸時代の『寒川入道筆記』(1613年)に登載されているもの(原文は「まさかりのくわいにん 何ぞ」p.201)。答えはまさかの「小野小町」。「マサカリ=斧(おの)」の「懐妊=子待ち(こまち)」だそうで。
なぞなぞの歴史は古い。編者によると、わが国最初の歌論書『歌経標式』(772年)にはすでに、和歌を使ったなぞなぞ風の言葉遊びについて書かれている。ご先祖様、そんな昔からなぞなぞしてらしたのですか。本書は、室町時代から江戸時代初期頃までのなぞなぞ集7冊、合計約970問を収録、1題ずつ編者が解説を加える労作である。
では、ここで本書から私お薦めの3問をご紹介。
Q1 露Q2 つばき葉落ちてつゆとなる 何ぞQ3 生まれぬ先の元服
「Q1 露」の答えは、風ぐるま。「葉の上の露は、風が吹いてくるまでの命。」(p.173)なので、「風来る間」→「風ぐるま」。このように「AといえばB」みたいな連想を求める問題は多い。同じ映像を出題者と共有できないと解答不能である。なかなか風雅な情景だが、いくら何でも問題がシンプルすぎる。
「Q2 つばき葉落ちてつゆとなる 何ぞ」答えは、雪。「つばき」の「は」が落ちて「つき」。「つき」の「つ」が「ゆとなる」ので「ゆき」。かなを削ったり置き換えたりさせる手法は、メジャーな作問技法のひとつだったようだ。
「Q3 生まれぬ先の元服」答えは、鯰(なまづ)。生まれる前に元服の準備とは気がお早い、名前をまず決めましょう。で、「名、まず」。微笑ましい。ただ、このオチを自力でひねり出すのは不可能だ。
当時の語彙やものの考え方に通じていない現代人がこれらを解くのは相当難しい。しかしその内容は豊かで、風流な世界観から下ネタまで、上手い!と称賛したくなるものから何となく腑に落ちないものまで、様々である。お題と答えから、中世の生活感や価値観、言葉遣いが身近に伝わってくる。この夏に岩波文庫で重版、入手が容易になった。1題ずつ読み切れるので、空いた時間にも楽しめる。(鉄)