今週のお題「残暑を乗り切る」

怪談 (英文版) ― KWAIDAN (タトルクラシックス )
- 作者: ラフカディオハーン(小泉八雲),Lafcadio Hearn
- 出版社/メーカー: チャールズ・イ・タトル出版
- 発売日: 2004/10/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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松江市は小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)ゆかりの地である。8月末、同市に立ち寄った記念に市内の書店でハーン著『怪談』を購入した。同書から切なくも美しい怪談をひとつご紹介し、日本の残暑と闘う同志の皆さまにささやかな涼をお届けしたいと思う。タイトルをA Dead Secret(邦題『葬られた秘密』)という。
丹波の田舎の豪商が、娘の「お園」に都の女性の礼儀作法を学ばせてやりたいと考え、京都へ送り出した。お園は京都で稽古を修め、父の知人の商人と結婚。一男を授かり幸せな日々を送るが、嫁いで4年目に病死する。
お園の死後、遺品を納めたたんすの前にお園の亡霊が佇むようになる。遺品に未練があるのかもと、お寺で処分するも再び出現する。困り果てた遺族は禅寺の高僧に相談。ある晩、僧が一対一で亡霊と対面する。無言でたんすの前に佇むお園の思いを探る禅僧。遂にたんすの中敷きの下に隠された一通の手紙を発見する。それは京都での娘時代に彼女がもらった恋文であり、これがお園の心残りだった。手紙を明朝焼き捨て、内容は口外しないと約束すると、お園は微笑んで姿を消し、その後二度と現れることはなかった。
いつか家族の目に触れないとも限らない、しかしどうしても処分できなかった恋文を気にかけ、無言でうつむく彼女。可憐である。手紙の内容を推測するのは野暮というものだろう。物語は次のように締めくくられる。
The letter was burned. It was a love letter written to O-sono in the time of her studies in Kyoto. But the priest alone knew what was in it; and the secret died with him.
(灰となった手紙、それはお園が京都で修行していた頃にもらった恋文であった。たったひとりその中身を知っていた僧もこの世を去った。そうして手紙の秘密も共に葬られた。(拙訳))
慈悲深い禅僧の手で手紙が供養され、お園は成仏した。見方を変えれば、これで家族は美しいお園の姿を永遠に見られなくなったということでもある。いずれにしても切ない。(鉄)