
- 作者: 鈴木しづ子,川村蘭太
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2019/06/05
- メディア: 文庫
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失踪した伝説の女流俳人鈴木しづ子を追う
2冊目の句集『指環』出版記念会から半年後の1952年9月、女流俳人鈴木しづ子は消息を絶った。このとき33歳。彼女の作品には三角関係、性的表現、ダンサーの仕事を想起させる内容も含まれていた。戦後間もない頃のことで世間の目をひき、失踪には様々な噂も流れたという。
著者の川村蘭太氏がしず子を調べ始めた時点で既に失踪から約30年が経過、自らを多く語らなかった彼女の調査は難航する。そんな中、失踪前の1年2か月の間、彼女が師に送り続けた7千句以上の句稿を発見する。そこには彼女が自らの生い立ちや身辺の出来事、折々の心境を告白する句が含まれていた。
こうしてしず子を追いかける旅は、大量の俳句を分析と並行しながら進んでいく。俳句を読み解くことでヒストリーに迫っていく著者の手技は秀逸である。本書には2冊の句集のほか、多数の未公開作品をもう読み切れないくらい掲載。ドキュメント愛好家も、俳句愛好家も惹き込む一冊である。
著者は、1952年の失踪までのヒストリーをほぼ突き止めている。1919年東京神田に生まれ、女学校、製図専門学校を経て就職した工場での俳句部入部をきっかけに俳句結社『樹海』に加入、作品の発表をはじめる。婚約者の戦死、母の死、同僚との事実婚と離婚。その後、東京を離れダンサーに。駐留米軍兵ケリーとの同棲と別離。第二句集の発表、失踪。
戦後の混乱期とはいえ、大変な人生である。米兵ケリーとの生活を詠む句などは穏やかに輝いているものもあり、それだけに苦難の影が濃く見える。朝鮮戦線からの帰国を詠んだ句がある。
秋の葉に嬉しき泪こぼしけり (p.257)
しかしケリーは戦線で重い薬物中毒になっていた。療養のためアメリカに帰国した彼の死亡をケリーの母から手紙で伝えられたようである。
急死なりと母なるひとの書乾く (p.259)
著者の調査にも関わらず、1952年9月以降の足取りは判明していない。存命なら100歳。叶うのなら、彼女と一緒にお茶でも飲んで、できればお酒でも飲んで、人生の話をじっくり聞いてみたい(私なんかにはきっと話してくれないだろうけど)。読了後しばらくたつが、鈴木しづ子が頭から離れない。(鉄)
(2019年6月発行、鈴木しづ子句集、小出蘭太評伝、河出書房新社、840円+税)