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【書評】南の島のよくカニ食う旧石器人[著]藤田祐樹

南の島のよくカニ食う旧石器人 (岩波科学ライブラリー)

南の島のよくカニ食う旧石器人 (岩波科学ライブラリー)

11月も中盤。国内旅行のパンフレットがカニツアー色の赤に染まる。秋の風物詩である。しかし、そもそも秋や冬に好んでカニを食べる文化はいつ始まったのだろう。本書は、3万年前の旧石器時代にも秋にカニを食べる習慣があった可能性を指摘する。沖縄の遺跡から大量に発掘されたカニの多くが、秋に採取されたものであると突き止めたのである。

本書は、旧石器人と生活の跡を追い求め、沖縄の鍾乳洞であるサキタリ洞を調査した記録である。世界的に重要な発見や、泥だらけで涙ぐましい裏話に加えて、出土品の分析を踏まえた3万年前の人びとの暮らしを「見てきたんか!」とツッコみたくなるような妙にリアリティのある表現で語る(旧石器人親子の会話まで再現を試みている)。

発掘作業によって3万年前の幼児の人骨、貝殻で作られた当時の釣り針や装飾品、絶滅したリュウキュウジカの骨などが大発見されている。掲載された写真からは本当に綺麗な形が保たれていることが見て取れる。そうした出土品を傷つけないよう、竹串でちょっとずつ土を掘るという。発掘とは地道な作業であることが分かる。

全体的に旧石器人の食生活に関する考察が厚い。それぞれ1万点以上のモクズガニ(食用の淡水カニ)やカワニナ(タニシ似の淡水貝)の他、ネズミ、コウモリ、カエル、ヘビ、トカゲなどの骨も多数出土、著者はいずれも旧石器人が食べたものと推測する。これを厳しい生存環境とみるか、豊かな食生活とみるか。著者は後者の見方をしている。年中獲れるはずのカニを、美味しくなる秋まで待って食べる余裕があったという見方だ。本件調査は現在も続いているようで、今後の発見が楽しみになる。

旧石器時代といえば『はじめ人間ギャートルズ』というアニメがあった。主人公の少年ゴンは家族と洞窟に住み、石斧を担ぎ、マンモスを追いかけながら楽しそうに生きていた。さすがにあそこまでではないにしろ、沖縄の洞窟にいた旧石器人たちも、著者が想像するように、案外穏やかな人生を過ごしていたのかも知れない。その辺り気になってきた方は、一度本書を手に取っていただければと思う。最後に、『ギャートルズ』のエンディング曲『やつらの足音のバラード』は名曲である。(鉄)

(2019年8月、岩波書店、1,300円+税)