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今日か明日、書店に行きたくなる書評

安藤哲也「男性の育休促進に向けて必要なこと」(『地方公務員月報』2019年11月号)を読んで思ったこと

1.地方公務員月報という月刊誌

『地方公務員月報』は、地方公務員制度の正しい理解と運用の指針を示す月刊誌である(総務省公務員課編)。想定読者は自治体の人事担当者だと思われる。自治体の取組みを応援しつつやんわり国の言うことを聞かせようとする姿勢が興味深く、想定外読者だが楽しんでいる。

 

2.安藤哲也「男性の育休促進に向けて必要なこと」(201911月号)について

201911月号の巻頭論文、安藤哲也「男性の育休促進に向けて必要なこと」に接した。論旨は以下の通りである。

・日本の男性育休取得率は政府目標に程遠く、自治体でも未定着。最も根深い理由は男女の役割分担意識。

・男性育休には家族との関係性維持、妻の産後うつ防止に加え、仕事へのモチベーションや生産性の向上など働き方改革にも寄与するメリットがあることを知るべき。

・若者に選ばれる組織となるためには男性育休と女性活躍は共に重要。その鍵は彼らを適切にフォローできるイクボスであり、管理職が「古い意識と昭和の働き方を変えること」で男性が育休取得しやすい風土が生まれる。

・男性育休は社会を変える「ボウリングの一番ピン」。これを倒せば少子高齢化男女共同参画などの社会課題も解決に向かう。自治体が率先垂範して男性育休取得率を伸ばすことに期待。

 このように氏は「意識改革」と「周知徹底」の必要性を強調する。男女共同参画社会基本法制定から20年、今、「男性の育休促進に向けて必要」とされているのは、本当に「意識改革」なのだろうか。

 

3.阻害行為者の価値観を理解する必要

旧態的な上司・同僚・社員自身の意識が男性育休取得促進を阻む要因だとする主張を一旦受け入れよう。その場合でも、彼らがそういう意識を持ってしまう理由・立場・背景をより深く理解する必要がある。政府の数値目標を振りかざし、君たちは遅れている、昭和の発想だ、意識改革が必要だ、などと檄を飛ばしても、残念ながらそれで人は動かない。彼らが何を心配し、何を恐れ、何を大切に思った結果として阻害行動に出るのか、その価値観を共感せずして、先には進めない。

例えば、管理職の心配ごとのひとつは、残る社員に過度の負担をかけずに業務継続できるかという点だろう。この点、氏は、男性社員が育休で「一か月休むとなると業務が回らなくなるので、本格的な業務の見直し、つまり働き方改革につながる(p.7)」という「メリットをまずは上司が理解し…チャンスととらえて欲しい(p.8)」という。思想には賛同するが、実際はそう上手くいかないところから、話は始まる。私の部下にも育休者、時短勤務者、育児の事情で急な休暇や早退をする社員がいる。彼女ら彼らの申し出を阻んだり嫌事を言ったりしたことはないが、その状況をチャンスととらえる余裕はなかった。働き方改革につなげた自信もない。結局、自分も含め残った者で対応している。このような現実に悩み、焦る管理職や社員の中には、つい阻害的な言動をとる人もいるだろう。これは会社組織全体としてサポートできているかという問題でもある。個人の意識の持ちように問題を収斂させることは課題を矮小化する。育休取得を阻害する態度は擁護できるものではない。しかし、イコール旧態的意識の発露と即断すべきではない。

 

4.男性育休取得率アップをピンポイントで追い求めることについて

ところで、男性育休取得率6%2018年全国実績)という数値を見て思う。育休取得できる職場環境であっても、夫婦で相談のうえ、あえて取得しない男性労働者も相当数いるのではないだろうか。氏はこういう男性労働者にも男性育休の制度や効果に関する周知が必要だという。その通りだろう。しかし、子育ては長く続くものである。男性育休取得率アップをピンポイントで追い求めることよりも、社員が家族と判断して下した選択を尊重しながら、子どもの関係で休む・帰る・一時ぬけることを希望する社員が気兼ねなくそうできるよう助け合える職場づくりが大事である。加えて、対処に悩む職場や管理職への具体的なサポートを会社として行う体制が必要と考える。意識改革の研修より、欠員状態の職場を円滑に回すためにアイディアと資源(代替者の人件費等)を投入することが、しいていえば「男性の育休促進に向けて必要なこと」だと考えるが、いかがだろうか。

 その意味で、男性育休取得を社会課題解決の一番ピンだと殊更に強調することに私は懐疑的である。本当にそうであれば、公金を投入してでも義務化を進めるとよい。しかしそれで氏が挙げる社会課題が解決に向かうと考えるのは、やや楽観的に過ぎる。地道な現場レベルの解決策が併せて必要と考える。この分野に多大な影響力を持つ安藤氏の提唱だけに、行末が心配ですらある。

5.自治体の人事担当者さまに期待すること

自治体人事担当者の皆様に言いたい。「男性育休取得率が去年より高いか低いか」というピンポイントの数値に一喜一憂する必要はない。それよりも、各職員さんが在職する全期間、色々な人生のステージ(育児、介護、病気など)に合わせて生活を大事にしながら仕事を続けていけるよう、長い目での、どっしり構えた、王道の取り組みを、一国民としてお願いしたい。各職場の長や悩める職員に「具体的なサポート」をしてあげてほしい。男性育休取得率アップはきっとそれについてくる。(鉄)

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