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スイーツの「歴史」の福袋、みたいな一冊

日本の食文化 6: 菓子と果物

日本の食文化 6: 菓子と果物

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2019/10/24
  • メディア: 単行本

お菓子や果物は生存用の食糧というよりは、味覚を楽しむ嗜好品である。ではご先祖さまはいつから、どんな風に甘味を食するようになったのだろう。本書では、栗・柿・みかん・飴・饅頭・羊羹・カステラなど20種類近い代表的なお菓子・果物の起源と、調理方法の変遷などを、食文化の研究者が丁寧に解き明かす。いわば、日本のスイーツ文化・歴史を詰め合わせた福袋である。

柿を食べることについては、8世紀の文書に干柿が商品として流通した記録が残るほどに長い歴史がある。江戸時代には、干柿の名品は高価な贈答品として用いられたという。読後、近所のスーパーで、果実コーナーの片隅に置かれた干柿を見た。かつて甘味のセンターを占めた時代を思い、畏敬の念が沸き上がった。

飴(アメ)の音が「アマイ」「ウマイ」に通じるとは知らなかった。飴が薬効ありとされ、薬売りとくれば唐人、との連想から異国のお菓子のイメージを付与された経緯が興味深い。また昭和初期、飴屋の組合を離脱した業者が路地などで営業を始めたのが紙芝居屋の誕生とのこと。飴と紙芝居屋の意外な関係を知る。

とりわけ面白かったのが「カステラと菓子パン」の章。南蛮渡来のカステラをオーブンがない当時の日本でどう焼くか。先人は苦心の末、蓋の上にも炭を置いて熱することで上下から加熱できる鍋を発明する。昔の人の創造性と技術はすごい。パン食を広めた事例として「ロバのパン」(パンの行商)が解説されていることに感動。販売車が近所に来ると嬉しくて表に出たことを思い出す。各地の冠婚葬祭やお礼に配られた餅や饅頭がアンパンに代替されていく過程を追う研究は簡単にしか触れられていないがより深く知りたくなった。

こうして本書がひもとく歴史を眺めると、この何百年、何千年の間、食生活は格段に豊かになったはずなのに、人は今も昔も同じようなお菓子や果物を食べ、同じように美味しいと思ってきたことになる。考えてみれば不思議なことだ。最近のスイーツは流行り廃りが激しいようだが、その中から永く愛されるお菓子が出てきてほしい。できればその一つに回転焼が入っていてほしい(好物である)。こうしてあれこれとスイーツに思いを巡らせたい気持ちにさせられる一冊である。(鉄)

『日本の食文化6 菓子と果物』(関沢まゆみ編、2019年11月刊、吉川弘文堂、2,700円+税)