負け犬の読書灯 〜本はいい。無秩序にご紹介〜

今日か明日、書店に行きたくなる書評

昔の日本人はオーロラをどう見たか。そもそも日本でそんなにオーロラが見えたなんて。

 日本の古い史書や日記には、オーロラを目撃したものと思われる記録が多数残っているという。古くは日本書紀(西暦6201230日)にあり、江戸時代には本居宣長も赤く光る夜空を見たと記す。地球の磁場の関係で日本でも出現やすかった時代、昔の人びとは夜空を赤く染める不可思議な天体現象(日本のような低緯度地域のオーロラは赤いらしい)を見て何を思ったのか。そのとき天空では実際何が起こっていたのか。本書は古い記録からオーロラ目撃情報を収集する史学の専門家と、その情報から当時のオーロラを科学的に分析する宇宙空間物理学の専門家の共同で組み上げる日本のオーロラ史である。

1241317日に発生したオーロラを巡っては、陰陽師が幕府に駆け付け、日本書紀を含めた過去の事例等を踏まえた分析と進言を行い、これがオーロラなのか彗星の影響なのかという議論をしていたという。陰陽師の情報ストック機能、すごいぞ。

また185991日のオーロラの様子を記した弘前の商人、金木屋又三郎は赤い夜空を見て最初火事だと考え、警戒と情報収集に努める。火事ではないことが明らかになると、今度は天変地異の予兆ではないかと疑っている。現在、仮に本州でオーロラなんか見られたら日本中がラグビーワールドカップ並みに熱狂するはずだが、当時は不安をもたらす現象だったのである。

江戸時代のオーロラ目撃図には、赤い空に白い光が噴水のように噴き出すような絵がある。一見信じがたい景色なのだが、日本・中国の文献から当日のオーロラの形状を科学的に分析した結果、確かにその図のように見えたはずだ、という結論に至ったという。こういうことも学際的な研究により明らかになるのだ。

オーロラ発生のメカニズムを述べる冒頭部分がやや取っ付きにくいが、巻末に再説されており理解を助けられる。80頁余の小冊子だが吟味された文章に加えて図も豊富。オーロラと日本人というちょっと想定外のペアリングへの関心が深まる。天体観察にはあまり関心がない私だが、オーロラ(できれば赤いやつ)を見て古の日本人の気持ちに近づきたくなった。チャンスはあるだろうか。(鉄)

『オーロラの日本史 古典籍・古文書にみる記録』(岩橋清美・片岡龍峰著、20193月刊、平凡社83頁、1,000円+税)