児童書にしてはやや無機質なタイトルと、落書きスレスレの脱力系イラスト。本書は民主主義のルールを、小学生の日常生活を引き合いに易しくユニークに語り教える。1953(昭和28)年12月発行であることを思うとき、終戦直後の開放的な空気と、新生日本を担う子ども達に期待する制作者の願いが感じられる。原作のマンロ―・リーフ作“Fair Play”がアメリカで刊行された1939年、日本は翼賛体制に向かっていた。その14年後、大人も子どもも本書を手に民主主義を想うことになる。まさに激動である。
お話はまず、他人と共生するためには身勝手な行動はいけないこと、規則や法律といったルールを守らなければならず、法律は公選の代表者が決めるのが最も良い方法だとする。また、自分勝手な行為が見苦しいことを繰り返し説く。
(野球をするとみんなで決めたとき)じぶんかってな「おらが」くんという子が、「ぼくは、野球なんかいやだよ。ひとりでたこをあげるんだ!」といってきかなかったとしたら、みんなは、いったいどうするでしょう?
「おらが」くん…?「俺(おら)が」の意味か、いやひょっとしたらOlgaか何かの音訳か?気になって原作を調べるとその子の名前はJustme。シンプルにして印象に残る訳出である。
お話の後半では、警察・消防など公益的業務にかかる費用は税金でまかなわれること等が説明される。この部分が割と詳しくて、行政サービスは公平であるべきことや、所得や資産に応じた課税にも触れている。さすが納税者意識が高いアメリカである。
現代の視点からはやや理想主義的だが新鮮な記述もある。例えば、選挙で自分が投票していない候補者が当選した場合について述べる一節。
いったん、投票でそうときまったら、その人たちをみんなでたすけていくようにしなければなりません。
これが、公平な、いちばんいいやりかたです。
突き詰めれば異なる立場間の論争も否定されそうだが、確かにそういうことなんだろう。しかし余程有事の時以外、あまり見た記憶がない光景である。
原作と突き合わせると、日本での出版に際し、原作に一部手が加えられていることがわかる。マンロー・リーフ氏がどのような思いでこの仕事に臨んだのか私には知る由もないが、きっと戦後日本の復興と民主化を期待してくれていたと信じたい。原作の1ページ目で北米大陸に立っていた少年、翻訳版では日本列島の上にしっかり立っている。(鉄)
(『みんなの世界』文・え:マンロー・リーフ、訳:光吉夏弥、岩波書店、1953年12月初版発行、出版社在庫なし(2020.1月時点))