『太陽にほえろ!』と聞くとあの乾いたテーマ曲が反射的に脳内再生されたあなた、同志と呼ばせていただこう。『太陽にほえろ!』は1972年7月から1986年11月までの14年5か月間、合計718話を世に放った刑事ドラマである。企画から最終回までの全作品を担当した岡田晋吉プロデューサーによる回想録が増補加筆のうえ発行された。制作過程や裏話が詰まった貴重で、熱量の高い記録である。
1970年、岡田氏は日本テレビで長期安定番組の企画を検討、ライバル社TBSの人気番組『キイハンター』等を研究し、バラエティ要素のある集団アクションものがいけると読んだ。これを当時減っていた刑事ドラマとして構成し、視聴者が若い主人公の成長物語をメインに据えて出来上がったのが『太陽…』だ、とのこと。緻密である。ノン・セックスを貫くことで模倣犯を防ぎ、家族で安心して見られる番組とするなど、独自のこだわりもあったという。多くの人に長く受け入れられるものには、やはり熱い思いと、筋の通った思想があるものなのだ。
マカロニ刑事ことショーケン、ジーパン刑事こと松田優作などのキャストのほか、脚本家小川英ら番組を支えた人達とのエピソードも充実。岡田氏はじめ関係者が真剣勝負で一作ずつ、しぼりだすように世に送り出してきたことが分かる。ここまでやったから歴史に残り、何の悩みもなくただボーっと番組を見て楽しんでいた当時小学生の私の中にも残っているのだろう。
私は俳優・露口茂が演じた刑事「山さん」が、昔から特に好きだった。各刑事には3分程度のテーマ音楽があるのだが、今でも疲れたときには「山さんのテーマ」を聴いてしまう。露口氏起用の目的は青春刑事モノであるこの番組に、30~40代の女性を惹きつけるためだったという。
ややもすると若い人の趣向に合わせ過ぎるこの番組に、大人の鑑賞に耐えうるものを注入してくれたのが彼だった。(p.99)
ブラウン管の中(当時はこれ)は眉間に深いしわをつくっていたが、人情味のある刑事だった。あの異様な安定感、安心感。ああいう大人の男になりたかった。
ここまでで紹介し切れなった刑事、俳優らにまつわるエピソードも多数。後半の「ベストエピソード100」には、例えば当時19歳の浅野ゆう子が大胆にもボス(石原裕次郎)に対して「あら、私のほうが股下が長い」と発し石原が驚いた、という小ネタ的エピソードも満載。久しぶりに『太陽にほえろ!』を思い出した方、昭和文化に興味がある方にお薦め。(鉄)
追記:当時、『太陽…』同様に多人数の刑事のチームを描いた作品に『特捜最前線』があった。私には実はそちらのほうがなじみ深い。世間的にはどちらが人気なのかよくわからないが『特捜最前線』を語る書籍のほうが比較的少ないようにも感じる。いずれ探したうえで、ご紹介したい。