
実力発揮メソッド パフォーマンスの心理学 (講談社選書メチエ)
- 作者:外山 美樹
- 発売日: 2020/02/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
本書のタイトルは『実力発揮メソッド』。「自分には実力といえるほど凄い力,ないしな…」という引け目を誘発しそうだが,大丈夫。ここで実力とは個々人が持っている能力を指す。本書はよく生きるためにその能力をうまく発揮することを目指す一般読者に向けて,心理学の最新研究を踏まえた考え方を紹介するもの。研究成果が私達の日常生活に応用できそうなスキルまで落とし込まれている点,巷の自己啓発本とは一線を画する。
7章からなる本書。1~3章では遂行したくなる目標の立て方,実行するモチベーションを保ち高める方法,成果につながる/つながらないフィードバックの方法を解説。4・5章では周りとの比較がパフォーマンスに及ぼす影響を「有能感」「社会的比較」という切り口で見る。ここは特に面白かった。6章ではパフォーマンスの強敵「あがり」にどう対処するかを扱い,7章で全体をまとめる。
正月に「今年の目標」と題して手帳に箇条書きしていた時期があったが,大抵実現できず,果ては書いたことさえ忘れる有様だった。本書によると抽象的な上位目標(著者の最上位目標は「自分の人生をより良く生きること」だという)を置いてから,関連する下位の具体的目標を立てる「ピラミッド型」が良いという。実現性の高い目標を達成するにはどうすればいいかという興味深い研究結果も紹介されている。私も心を入れ替えて,現在ピラミッド建設中である。
一般的に人は厳しい環境で揉まれるほうが強くなると言われがちだが,能力の高い人ばかりの環境か,自分の能力が相対的に秀でている環境のどちらが本人のパフォーマンスにプラスに働くかは,実は人によって違うという。特定の人と自分を比較する場合でも同じことで,力の接近している人と比較するのと,力のもっと優れた人のどちらをライバルに据えたほうが本人のパフォーマンスが上がるかも,人によるのだそうだ。自分を追い込むことだけが成長の手立てではないということのようだ。
そもそも自分がどういうタイプなのかが判明しないと使えない理論も載ってはいる。とはいえ,コンパクトな本文162頁に紹介し切れないほど多数の説やアドバイスが満載。根性論やどこかの成功者の体験談とはまた違うアカデミック視点が刺激的だ。仕事,勉強,それ以外の活動をこれからも頑張りたい,でも少し目先を変えて成果を出したいと願う方には,ぜひお薦めしたい。(鉄)