負け犬の読書灯 〜本はいい。無秩序にご紹介〜

今日か明日、書店に行きたくなる書評

廃棄したはずの本に古本屋で再会

今週のお題「激レア体験」

人事異動を期に、自分で買って職場に置いていた売れなさそうな書籍をまとめて処分したことがある。悲しいが、時にはやむを得ない。書き込みをしたりして価値がなさそうなものを紐で縛り、ビルの地下にあるひんやりした集積場に運んだ。

その後1年は過ぎただろうか。仕事帰りの解放感に任せて市内の古本屋に立ち寄った。居並ぶ背表紙を眺めながらぶらぶら歩くのは至福のときである。そのとき、一冊の懐かしい本を見つけた。私のいる業界以外の人の関心はおそらく惹かないだろうマニアックな本である。前の部署のとき買ったよな、異動の時に捨てたっけ。手に取ってひっくり返すと、本の小口から見覚えのあるインデックスシールが突き出していた。そこに書かれた文字は明らかに私の筆跡である。

それは紛れもなく私が廃棄したはずの本だった。

これはドラマで崖から突き落とされた人が最後に現れるシーンに似ている。

「お、お前がどうしてここに。お前は確かあのとき...」

ドラマなら相手が不敵にほほえみ、手短に経緯を説明してくれるが、本は私の手の上で静かにしている。本だけに読み取れ、ということか。

誰かが地下の集積場から持ち出して売ったのか、回収業者経由で流通したのか、そんなところだろう。大胆にも1260円の値札がついていた。人の本で儲けやがってと少し頭に来たが、元は自分が処分したものである。それにしてもそれを再び手にするとは奇遇である。

懐かしさから買おうかとも思ったが、自分が廃棄した本を1260円でもう一回買うのも何か変なので、書架に戻した。

その本はなかなか売れず、何年も同じ場所に刺さっていたが、先月行くとなくなっていた。売れたのか、あるいは今度こそ廃棄されたのか、分からない。本だけにカミのみぞ知るということか(しつこい?)(鉄)