負け犬の読書灯 〜本はいい。無秩序にご紹介〜

今日か明日、書店に行きたくなる書評

靴下の穴と長時間労働

今週のお題「お気に入りの靴下」

社会に出て、頻繁に靴下に穴が開いた時期があった。だいたいつま先部分からやられるのだが、気に入った靴下も、丈夫さを謳う商品も程なく破れた。あんまり次々に傷むもので、穴の開いた靴下を履くことが常態化した。居酒屋などで靴を脱ぐ場面では恥ずかしいので、つま先部分をちょっと引っ張って、足の親指の下に挟んで隠すこともしばしばあった。情けない時期であった。

オフィスワークでここまで急速に靴下が劣化する理由を、当時は思いつかなかった。振り返ってひとつ思い当たるのは、長時間労働をしていたことだ。働き方改革という言葉も過労死等防止対策推進法もなかった20代半ばから30代にかけての時期、時間外労働が現在の過労死基準の2倍かそれ以上の月はしょっちゅうだった。幸いにして生き延びた。徹夜明けの寒い朝、会社の洗面台で頭を洗い、外に出てたばこを吸い、出勤する社員を眺めながら、俺はこれだけ仕事しているんだ、という高揚感すらあった。

そんな生活の中、長時間にわたり革靴の中の熱や湿気に当てられたせいで、靴下は次々とだめになったのではないか。靴下が破れるの足から出る毒素が原因だとするネット記事があった。毒素を発していたかどうかは知らないが、どっちにしろ私の革靴の中は繊維に長時間悪影響を及ぼす環境ではあった。

今は立場も変わり、時代も変わり、あの当時のような残業をすることも、靴下に穴が開くことも減った。しかし、当時靴下の繊維に補修しようのない劣化が生じたように、自分の身体もどこか不可逆的に傷んでいるのだろう。みなさんの靴下は大丈夫ですか。頻繁に傷んでいるようなら、いろいろご事情もおありかと思いますが、どうか、どうかご無理のないように。(鉄)

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